父が認知症状態になってはじめて精神科を受診したとき、
告げられた診断名は「コルサコフ症候群」だった。
その言葉は知っていた。
胃の手術後にウェルニッケ脳症・コルサコフ症候群になってしまった男性の
ドキュメンタリーを以前見たことがあったから。
毎朝目を覚ますたびに、前の日の記憶がない。
奥さんや子どものことはわかる。
でも、新しい出来事が記憶として積み重ならない。
まるで、ある時点から時間だけが止まってしまったみたいだった。
父に何が起きているのかを理解したいと思い、
記憶について調べているうちに出会ったのが、映画『メメント』だった。
この映画はコルサコフ症候群を描いた作品ではないけれど
新しい記憶を保つことができない主人公の姿は、
「記憶」ということについて考えるきっかけを与えてくれたし
とても面白い映画だった。
『メメント』の主人公は、新しい記憶を保つことができないから
時間が連続した経験として積み重ならない。
私は25年という時間を重ねたからこそ、
30歳だった頃の自分を違う眼差しで見ることができるようになった。
出来事は変わらない。でも、その意味は変わる。
時間を積み重ねるということは、新しい記憶を増やすことだけではなく、
過去の出来事を捉え直すことでもあるのかもしれない。
もしそうだとしたら、「時間を重ねる」ということはとても幸せなことなのだと思う。
メメント Memento
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