父の介護 ー あの日の「大丈夫です」


私は30歳くらいだったと思う。前夫と娘と一緒に地方に住んでいた。

その前の年、妹から、父のアルコール摂取量がさらに増えていることを聞いていた。
父に、「私たちと同居しない? きっと楽しいよ」と勧めてみたこともある。
けれど父は、「一人が気楽でいい」と言って断った。

妹から連絡があった。
父が酩酊状態で階段から転落したという。
額を強く打ち、おそらく後遺症が残るだろう。
寝たきりになる可能性が高いと聞かされた。
会いに行った父の顔からは、一切の表情が消えていた。

私は寝たきりの父を自宅で介護する準備を始めた。
その時、ケアマネージャーさんに強く言われた言葉を覚えている。

「甘くないわよ」

けれど当時の私は、根拠のない自信に満ちていた。

大丈夫。
私ならやれる。
私だもの。

今ならわかる。そんなわけがない。
私は全能じゃない。

ところが、ここでも父は父だった。
予想に反して驚くほど順調に回復していった。
歩けるようになり、感情も表せるようになった。

前頭葉の損傷によるものなのか、性格は大きく変わってしまったけれど。
そして記憶障害、認知障害が残った。
それでも寝たきりにはならなかった。
予定とは違う形で、父との同居生活が始まった。

精神科を受診した時のことも覚えている。
医師は父よりも、むしろ私に向かって話しているようだった。

「お父さんに愛情いっぱいというわけじゃないんでしょ?
それならなおさら、プロに任せた方がいいんじゃないの?」

施設に入所させるという選択肢だった。
私はまた意固地になって答えた。

「大丈夫です」

大丈夫じゃなかった。
本当は、全然大丈夫じゃなかったことが後からわかった。

おつかれさま ー 父の記録
Maktub — 必要な時に必要な事が起きる

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